話題の「民泊」。松本市では何が問題で、どんな可能性があるのか?

青木たかし

2018年02月09日 19:00

こんばんは、最年少松本市議会議員の青木たかしです。

県内最多の年間14万人にのぼる外国人宿泊者数を受け入れる松本市において、
「民泊の問題が身近であることを認識してもらいたい」という趣旨で、旅館組合主催、松本市共催による民泊シンポジウムが開催されました。


シンポジウムのパネルディスカッションの様子

課題としては、地域住民の安心・安全な生活環境を悪化させないことを最優先に、どのエリアと期間で認めていくのか、市町村で、また各地域の住民同士で考え、決めなければならない。

可能性として、体験を重視する訪日個人客に対して、古民家風民泊などのように、松本らしさを付加できれば売りにもなり得る。

といったテーマが示されました。

長野県では宿泊施設の稼働率が35%と全国でも低い稼働率となっていることから、90%を超えて宿が不足している都市部と同じようには考えられない実情があります。長野県の制定しようとしている条例については、各市町村の実態やニーズを反映できるような規定となっており、民泊の在り方について、市町村の果たすべき役割が大きいことがわかりました。


以下、概要についてです。


「誰でもわかる民泊問題」
講師 全旅連 桑田雅之氏


◯民泊が注目されている理由
政府は2020年に4千万人、2030年に6千万人の訪日観光客を増やす。6千万人はスペインと同じ水準で大きな目標である。
観光客増に伴い、東京・大阪・京都・福岡などの宿泊施設が不足してきたため、政府は2年前から住宅の空き部屋を活用した民泊に注目
820万戸あると言われる空家空室を有効活用できる一方、違法民泊の増加で規制も求められている。


◯民泊の何が問題なのか
・顧客から宿泊料をもらって継続的に営業するには旅館業法の許可を得なければいけない。
今の民泊はほとんど許可を得ていない。そのため、固定資産税や消費税、所得税も支払っていない人がほとんどとなっている。
そういった民泊においては、宿泊者の安全・安心を担保せず、脱税をしているという現状がそのままになっている。

・民泊には2種類ある。
家主居住型:家主がいるため、問題は起きにくい。
家主不在型:マンションのセキュリティーのメール通知、騒音、ごみ処理、暴行、麻薬取引の問題が起きている。

旅館業法や国家戦略特区の許可を得ていない民泊はすべて違法だが、それらを取り締まる法律がこれまでなかった。

経営者の住所や氏名もわからないため、物件を特定することも困難な状況にある。


◯国内における民泊の規制の今後
旅館業法改正が6月15日に施行される。業務違反の罰金が3万円から100万円になり、保健所に立ち入り調査権が与えられる。


◯世界はどうなっているのか
賃貸で貸すより民泊の方が利回りが良いこともあり、民泊の普及で住居不足が深刻化している国もある。

営業許可日数は
仏は120日以下
イギリスは90日以下
オランダ アムステルダムは60日以下

日本は180日未満の方針を示しており、理由として、

・2020年の4千万人受け入れ目標には宿泊施設が不足する

・諸外国は住居が不足しているが、日本は820万戸も空家がある。


が挙げられている。



◯施行予定の民泊新法とは
民泊新法の主旨は、事業者の匿名性を排除すること。年間営業日数180日の上限を設けて旅館業法の許可を持つ者と持たない者との差別化をする狙いがある。

また、都道府県の条例で生活環境の維持保全および地域の観光産業の育成・促進の必要性を鑑みて、営業日数を短縮することもできる。さらに、都道府県は条例を定める際に、市町村の意見を聞かなければならないことを規定した。

短縮できるのは、

・静音な環境の維持及び防犯の観点から、学校や保育所等の運営に支障をきたすおそれのある場合

・狭隘な山間部にある、道路事情も良好でない集落で渋滞を悪化させるなどで生活環境を損なう恐れのある場合(例えば、花見、紅葉シーズンなどで渋滞が発生するシーズンなど)


今後必要な取り組みとして、

・民泊は地域住民の問題であると知ってもらい、地域でどのエリアをどの期間制限するのか話し合うこと

・6月15日施行以前に県の条例制定をしないと、既得権益が発生してしまうこと

が挙げられました。



◯各地の条例整備の動き
京都府は1・2月のみ営業可、緊急時の管理者の駆けつけ約10分(国は30〜60分)
兵庫県は全面禁止

◯民泊新法施行後の課題
・都心部では生活と観光の境目がなくなり、住民たちから観光への不満が出る
・旅館が住宅になれば固定資産税が減税され、地方自治体の税収減へ
・地域に根付かない人が経営を始め、全く地元のルールを守らない状況が発生
・東京五輪後の状況を見るため、3年後に民泊新法を見直すこととなっている


以上。






次に、長野県食品・生活衛生課から、県制定予定の条例案についての説明がありました。


大田区の宿泊施設の稼働率は90%であるのに対して、長野県は35%となっており、同じ条件ではない。経済的要因も制限内容に加えてほしいという声もある中、生活環境の悪化防止にターゲットを絞ったのが今回の民泊新法であるといいます。47都道府県において条例を作る予定は15自治体(現在)で、残りは様子見となっている。2月定例会で条例を提出するとのこと。


「住宅宿泊事業の適正な実施に関する条例案」

・条例の目的
事業者の責務を明らかとし、県民の良好な生活環境を保全するもの。

・責務
パブリックコメントにおいて努力義務では弱いという指摘を受けて、義務事項として強い表現とした。
周辺地域住民に説明をし、その報告を書面で県に提出することを義務化。一方で、営業の自由権があるため、説明なしの届出も受理せざるを得ないが、説明の必要性やその後の影響について事業者に働きかけることになるとのこと。
事業者は、衛生・災害時の安全確保の他、宿泊者全員の本人確認及び鍵の受け渡しを原則として対面により行うこと、宿泊者のごみを宿泊者に捨てさせないこと、住民からの苦情に対応できる体制を整えることを求められる。

・事業実施方針の届出を義務付け

・制限区域と期間
一例として、
学校等の敷地から約100m以内、月曜日から金曜日までは全県一律で民泊を規制する」といった制限を設ける。ただし、地域の実情をより反映できるものとするため、市町村からの申し出があれば、区域解除が可能であり、家主同居型であれば、規制の対象外となる。

他にも、社会教育施設や医療提供施設、住居専用地域、それに準ずる区域などでも規制がかけられることとなる。

・民泊適正化に向けて
優良事業者の認定制度も検討中である。


以上。






その後のパネルディスカッションについて

◯松本の訪日客の現状
H28宿泊者は140,755人

アジアから来た人が58%、欧米豪は42%とバランスが良い。
台湾が最多で、中国タイ香港インドネシアと続く。

観光案内所では、
アジア20%
欧米豪その他80%
に案内をした実績があり、イスラエル、ベルギー、デンマーク、エジプト、コロンビア、ペルーからも来ているとのこと。

市としては更なる受け入れ体制充実のために、ニーズ対応を高めていく方針が示されました。

条例骨子案が示され、市としての考え方を県にあげる段階にあるが、学校等の周辺の静音環境を守る方向で意見を調整している。また、規制を解除する地域を選定する作業をしている。特に学校関係者からは規制が必要ではないかとの声が多い。学校周辺100m以内に誰が住んでいるのかわからない住居があると、生徒・児童の安全確保が難しくなるためとのこと。

住居専用地域における指定区域の定めについては、今後の動向を見ていくとしている。

インバウンドを推進していく観点からは、外国人は体験を重視しており、古民家風民泊に興味を持ってもらえる可能性もある。安全安心は最優先だが、新法にもとづきながら、地域のルールをしっかり守って運営していくならば、選択肢のひとつになりうる。松本市にふさわしい質を確保したものができれば、セールスポイントもなり得ると考えながら対応していく。


以上。

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